Dummy Up and Deal / ダミー・アップ・アンド・ディール
H・リー・バーンズ著
– レビュー・総合評価 –
観光客が一般的にカジノに対してイメージする「きらめきと興奮」は単にカジノの表の顔にすぎません。ゲーム業界の最前線で働く人々やディーラーにとって、カジノは魅力的な環境とは程遠く、緊張の連続、精神的・肉体的な欲望と、ユーモア、悲哀に満ちた職場です。
ラスベガスの有名カジノでディーラーとして長年を過ごした著者H・リー・バーンズは、テーブルゲームのディーラーの視点でこの世界を描いています。老若男女問わず数十人ものディーラーによって語られた「ダミー・アップ・アンド・ディール」は、読者をディーラー席から見える景色へと連れて行ってくれます。
ここではディーラーのトレーニングの一環である「breaking in(ブレイキング・イン)」が紹介されています。ここでは、長時間の集中力と、時に不合理で非情なプレイヤーの要求に応えられるよう、ディーラーとしての強い心を育てながらゲームの動きを学びます。
ディーラーがどのようにシフトやテーブルに割り当てられ、どのように同僚やスーパーバイザーとやり取りをし、また勝者と敗者、「スイートハート(親切で寛大な人)」と「ドラゴン・レディ(東および南アジア人の強く、狡猾、傲慢で、神秘的な女性像のステレオタイプ)」、スリルを求める観光客と「ジュース(手数料)」を披露するギャングたちなどあらゆるタイプの顧客との交流が描かれています。この本を通して、私たちはテーブルの両側で起こる不正、フランク・シナトラやエルビスの敏腕マネージャーとして有名なパーカー大佐などの、ハイローラーによるカジノの悪用を目撃します。
またディーラー業務外の生活も詳細に描かれ、あるディーラーは非日常的なカジノ運営に携わりながらも、自身の家族に対する責任を果たし、またあるディーラーは自由奔放なライフスタイルを受け入れ、時には麻薬、酒、セックスにおぼれていきます。そのような破滅的な生活は、やがて苦い経験を招き、人の精神と心を弱らせる人生に発展していきます。それでもディーラーとしての人生は、ユーモア、寛大で親切なプレイヤーとの出会い、誇りや人間性、プロのチームワークなど、人生に良質な経験を提供することもできます。
バーンズは自分の関わる職業を丁寧に観察し、率直な態度でこの業界の真実を描いています。酸いも甘いも目撃し、それでもなお好奇心や共感、笑いを忘れないバーンズ。「ダミー・アップ・アンド・ディール」は、内部関係者によるカジノ業界についての鮮やかな描写で、きらびやかなカジノの背後にいるカジノ労働者の現実世界へといざなう魅力的な作品です。
H・リー・バーンズの名言
「”私たち”という言葉は単に自分達のことを複数形で呼んだ最初の人、という意味を超えたもので、まさに彼らが議論しようとしている”何か”は、その言葉が意味するほど曖昧ではないという事実は天才でなくても理解できた。」